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命に全く別状はなく、健康そのものだったMに対して、Sは見るからに衰弱した様子で、逮捕のとき、彼女は栄養失調にも陥っており、警官の補助がなければ歩けないほどだったそうだ。
Sの体調も鑑みて、慎重に取り調べは行われたが、彼女もまた、頑として口を割らず、事件に関しては黙秘を続けていた。
家宅捜索が行われたSの部屋からは、ペット用の柵、首輪、リードなどが押収され、Mの髪の毛や皮膚の一部など、監禁の痕跡が発見されたため、事件の犯人は彼女で間違いないと警察も断定した。
こうして真犯人も判明し、事件は終息したかに思われたが、やはり空白の十日間が謎のままであることから、連日警察とMの所属事務所には報道陣が押し寄せることとなった。
事態を重く見たMの所属事務所は、マスコミ各社に向けて、M本人による緊急記者会見を設けることとなった。
Mの帰還より三日後、事務所の応接室にマスコミがぎゅうぎゅうに詰め掛けた中、姿を現したMは場違いなほどに爽やかで、監禁事件の被害者にはまるで見えない、ただの一人のアイドルとしてそこに立っていた。
以下、Mが自ら語った、十日間の出来事である。
皆様、本日はお集まりいただき、ありがとうございます。
まず、僕の浅はかな行動から、メンバー、スタッフ、関係者の方々、そしてファンの皆様に、多大なる心配とご迷惑をおかけしてしまったこと、心からお詫び申し上げます。
本当に、本当に、申し訳ありませんでした。
正直、本当に、考えなしだったというか、甘かったというか、こんなに大事になっているとは、僕自身、全く思っていませんでした。
僕が、Sさんの家で過ごした十日間? ですか、もう時間感覚も曖昧だったんですけど、その十日間は、夢を見ていた感じというか、全く現実味がなくて。あ、夢のような時間だった、という意味ではないですよ。Sさんの名誉のために言うときますけど、というのも変な感じかもしれませんが、僕とSさんの間に、その、男女的なことは一切ありませんでした。何一つ。そこはあの、変に邪推して欲しくないので。言わせて貰いますけど。
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