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珠依るΩ、天子の手に咲く
◆◇◆
1
「ルキナ、顔が真っ青だぞ」
肩に手のひらを置かれたのだと気がつくのに、しばらく時間を要した。茶色がかった紙に印字された文字を読み取るのに精一杯だったからだ。
理解不能な文字列は、ルキナ・タマヨリの目に焼き付いて脳みその中を暴れまわった。横から木の棒で殴られたような衝撃が走り、鼻の奥がツンと痛んで、ぐらぐらと頭が揺れていた。
碧色の両眼で瞬きを数度繰り返したものの、文字列はまるで焼印のように目に張り付いていつまで経っても剥がれなかった。
「ここじゃ目立つ。家に戻ろう」
ぼそぼそと耳打ちをされて、ルキナは顔を上げた。自分の友であるセイクリッド・アガナイが苦々しい表情で自分を見下ろしていた。二の腕を掴まれ身体を引き上げられて、ようやく自分が椅子から崩れ落ち床に膝をついていたことを知った。
「セイ……」
ルキナは手に持った紙をクシャクシャに握りつぶした。セイと愛称されるセイクリッドは平素の溌剌とした笑顔は浮かべず、眉根を寄せて厳しい表情をしている。
「早く家に帰ろう。ここに長居しちゃいけない」
セイクリッドはルキナの二の腕を掴み、血質院から半ば引きずり出すように街道に出た。
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