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「その紙をしまえ。早く」
語気を強めて言われ、ルキナは両手を震わせながらのろのろとそれを懐にしまった。茶色がかった紙には中央に描かれた印と共に、幾人もの医師と役人による仰々しい判が捺されていて、それがただの紙切れではなく国家が交付した公文書であることを示していた。紙が茶色がかっているのは蝋引きされているからだ。蝋引きされていれば水にかかっても破れない。
「顔を上げて真っすぐ歩け。血質院から項垂れて出てきたなんて妙に思われるぞ。しっかりしろ」
セイクリッドに強く背中を叩かれて、ルキナは曲がっていた背筋をぎこちなく伸ばした。膝がガクガクと震えるため、麻でできた袴の裾が砂埃の舞う街道に擦れる。セイクリッドは馬車を呼んで、ルキナをその中へ押し込んだ。
ガタガタと車輪を揺らしながら、平坦とは言えない土道を馬車が進みだす。いくつもの馬車が行き交っても支障ないほど幅の大きな八条通りだが、道行く人々の表情は決して明るくない。道に落ちた小石のように通りの端に転がる麻布たちは、落命した難民であった。薄汚れた麻布にくるまった子供が、商人が落とした魚を一匹摘んで口の中に放り込んでいる。
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