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転校の話を聞いたのは、高校1年の冬だった。
父が死んでから、母はそれはもう身を粉にして働き続けた。しかし、生活は苦しくなる一方だった。
都会で暮らすということは、俺が思っている以上に金がかかるものらしかった。俺もバイトをして何とか家計を支えようと頑張ったが、それでも生活は一向に楽にならなかった。
そんな時、俺たち親子を気の毒に思った富里町に住む親親戚が、自らが経営するアパートを格安で貸してくれるという話を持ってきてくれたのだ。
母は最初こそ、俺の転校のことを気遣い二の足を踏んでいた。しかし何とか説得し、ここ富里町に引っ越すことができたのだった。
「へ、へぇ…」
「そっちから聞いておいて引かれるのはちょっと心外なんだけどなぁ」
教室の時計の針が12時30分を指すのを横目に、俺は矢田君、そして小山君と机を突き合わせて昼食をとっている。
会話の流れで矢田君が「なんでこんな田舎に引っ越してきたんだ?」と聞いてきたので簡潔に説明したら矢田君がちょっとだけ引きつったような表情を見せた。そうして今に至る。
まあ、我ながら初対面の人間にする話ではなかったのかもしれないが、聞かれたことに正直に答えるのも人間として当然のことだと思う。というか、そのうちバレることなのだから、隠す必要性を感じられないゆえに、何一つ話を盛らずにそのまま語ったということもあるが。
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