第1章

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俺がかつて小説家を目指すようになったきっかけは2つある。 一つは幼い頃読んだ『白雪姫』の物語。本場のグリム童話ではとても残酷な内容となっているらしいが、俺が読んだのは一般的に日本で流通している方の白雪姫のほうだ。 どうしてこの物語に影響を受けたのかは今となってはよく思い出せない。しかし、それがきっかけの一つであることは確かである。他にもいくつもの童話を読んだが、後にも先にも未だに強く印象に残っているのはこの物語だけだった。 そして、もう一つは父親が小説家だったということだ。 さほど有名でもなかったが、それでも父親は我が子にその職業に就くことを夢見させるくらいは、俺にとって影響力のある人物だった。 俺がまだ小さい頃、父が初めて賞を授かった時、俺は心の底から父を尊敬した。父のように人を感動させる作品を書きたい。その一心で俺は小学校高学年から中学生という多感な時期のほとんどを小説を書くことに費やしたのだった。 今になって思えば、それがあまり良くなかったのかもしれない。 俺には当時友達と言える存在はほとんどいなかった。 いや…少し嘘をついた。ほとんどいなかったのではない。一人もいなかった。 だけど、俺には小説がある。そう自分に言い聞かせながら来る日も来る日も物語を綴り続けたのだった。
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