第1章

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そして、途方も無い一人の少年のそんな夢は、多くの人間が等しく体験するように脆くも崩れ去ることになる。 理由は3つある。 一つは自分の能力に限界を感じたということ。まあ、これは人並みだな。 もう一つは、家が貧乏だということ。これはある程度自分が年を重ねて知ったというか、悟ったことなのだが、売れない小説家だった父さんの給料というものは、それはもう雀の涙ほどのものだったようだ。もちろん貧乏だから小説家になれないわけでは ないので、この理由は3つの中で一番影響のないものだと言えるだろう。 大きく影響を与えた3つ目の理由。 それは父が死んでしまったということだ。 今まで自分の目標となっていた人物が、通りすがりの車にぶつかって死んだ。 なんの前触れもなく、あっけなく。一人の命が、この世から消えた。 このことが俺の人生観を大きく変えたのだった。 夢ーーそれは、嘘で塗り固められた言葉であると言うこと。 大人が都合良く作り上げた、偽りの言葉であると言うこと。 そして、そのことを自覚してから俺は、必要以上に何かに真剣に取り組んだり、必死になったりすることを嫌い、止めた。 もちろん、小説家になるなんてベラボウに身の程知らずな夢は捨てるどころか、二度と自分を惑わさぬよう意識の奥深くに閉じ込めてしまったのだった。
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