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「こまかいことは気にすんなって。ハゲちまうぞ?」
にしししと矢田君が屈託のない笑い声を上げる。すると、同時に周りからクスクスと笑い声が聞こえてくる。どうやらこの男は普段からこのクラスにおいてムードメーカー的な立ち位置らしい。
「小山だ。呼び方はなんでもいい」
イケメンがぶっきらぼうにそう答えた。でも、悪いやつではなさそうだ。俺の頼りない勘によるものだが。
「孝雄って呼んでやって」
矢田君がいたずらっぽい笑みで小山君の肩をポンポンとたたくと、小山君は照れ隠しのようにその手を振り払った。
それに応じて近くの席に座る生徒数人がクスクスと笑う。いやな笑い方では決してなく、そこに流れているのはなんとも穏やかな雰囲気だった。
何というのだろう。こういうといかにも偏見に満ちあふれた物言いになってしまいそうだが、田舎らしい良い人の集まりといった印象のクラスだった。
少し前まで通っていた学校はいわゆるビルに囲まれたところに立地されている、都会の学校だった。別に人間関係での困り感はなかったが、我関せずと行った他人に無関心な雰囲気を持つ生徒が多かったので、こんな穏やかな雰囲気に包まれる教室は久しぶりだった。
まあ、別にどちらが良いという訳ではないが、何事もなく平穏に暮らすという俺の途方もなく抽象的な目標を達成するには好条件だ。
一つ胸をなで下ろすような心持ちで鞄を机の横にかけ、俺はイスに腰をかけた。
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