第2章

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「そうだなぁ。悪いけど午前中、あんまり女子のこと見てなかったから」 「なにぃ!お前、もしかしてコッチか?」 矢田君が右手の甲を頬にくっつけて声を荒げた。 「それだけでそうなるのは、ちょっと強引過ぎないか?」 「そーか?健全な男子高校生は1日24時間そんなこと考えてると思うぞ?」 うん…。まあわからなくはないけど、そんな奴はほんの一部だろう。フッと一つで息を吐いて、周りを見渡す。 教室で昼食をとる生徒は、どうやら少数派らしい。残っているのは俺たちと、4人で机をくっつけて食卓を囲んでいる4人ほどの女子のグループだった。 「そうだな。あの一番後ろに座ってるポニーテールの娘とか?」 万が一にも向こうに聞こえないように小声でそう伝える。 すると、矢田君が興奮したような表情をこちらに近づけてきた。 「おおお!都会っ子のお前にも天野は可愛く映るんだな!?」 うん。顔近い。つば飛んでくる。そして俺の気遣いと羞恥心を返せ。 「え?呼んだ?」 明朗かつ通りやすい声が鳴り響いた。おそるおそるそちらのほうに視線を送ると、お箸を口につけた彼女と、一緒に昼食を取っている他の女子も一斉にこちらに注意を向けていた。 「ちょっと転校生と天野が可愛いって話してたんだよ」 思わず「ほあ!?」と声を出してしまうところだった。 挨拶でも交わすくらいの軽さでそんなことを平然と言ってのけた矢田君に目を見張るが、隣の小山君はなんのリアクションも見せずに弁当をつついている。 件の天野さんも、ちょっと呆れたような表情を浮かべたかと思うと、右手を上げてひらひらと動かした。 「バカなこと言ってないで、早くお昼食べなさいよー。もうすぐ昼休み終わっちゃうわよー」 そして彼女はまったく動じない様子でそんな風に言うと、改めて女子の昼食会へと意識を戻してしまった。 「えらく親しげだな」 俺の問いに、矢田君はメロンパンをかじりながら少し考える仕草を取る。 「んー。まあ、こんな田舎だから大体のやつは小学生の頃から知り合いなんだよ。天野もその一人だ」 「ふーん」 そんなもんかね。まあ、なんとなくわかる気もするし、もしかしたらそういう感じなのかなと予測はしていたけれど、いざ眼前でそういう雰囲気を見せられると、どうにも落ち着かない気分になってしまった。
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