第一章 漂流記

4/8
前へ
/83ページ
次へ
 志摩が怪我をすると、泣きたい気分になる。俺は、志摩の指をこじ開けて、小指を見ようとした。 「……やっぱり、守人様は綺麗だ。体に光の文様が入って、周囲を照らしている」  でもと、翔琉に志摩の手の中に押し戻されてしまった。 「闇だけの村に、この光は酷だよ。もう少し隠れていて……」  翔琉は、闇を集めると志摩の指を再生していた。 「×の怪我ならば、俺でも治せるから」  俺は指の隙間から、覗いてみた。すると、笑っている翔琉と目が合った。 「志摩さんにも、危害を加えないよ。俺も、満千留(みちる)がいなければ処刑されていた身分だしね……守人様が、追われている状況も理解している」  無限の闇産みは、禁忌の存在で処刑対象であった。しかし、柴崎に満千留という光を食べる子供が生まれ、翔琉は二重人体として生かされる事になった。  ×は光に消されてしまう。光を食べる満千留は、人と判断され、異能持ちであったので、守人様という村を守る存在だと位置付けられた。守人様は、その時代に一人しか存在しないとされていたので、先に守人様と呼ばれていた俺は、皆を騙したと処刑される事になった。そこで、志摩が俺を食べ、逃走してくれたのだ。 「あの、村はもう守人様を処刑しませんよ」 「上月でいいよ」  年も近そうなので、様付けで呼ばれたくない。 「村は守人様が欲しい。でも、正式に辞退する書類が提出されているので、手が出せなくなっている」  遺体でもいいので、村は守人様を探そうとしていた。しかし、そこで氷渡(すがわたり)が権利を主張し拒否したのだ。 「村が動かないので、住民達が怒り、光二さんを誘拐して氷渡を脅迫してきた」  どうして、光二が誘拐されたのかは分かってきた。でも、柴崎は氷渡と仲が悪いが、誘拐はしていないという。 「俺は×です。こんな危険な存在ですけど、守人様と契約したい」  闇の中で、村を全滅させると言っていた人物と、同一人物とは思えない。 「村を全滅させるのではなかったの?」 「それは、満千留がもう半数の×を食べていますから、もうすぐですけど……」  それを、あっさりと認める所が、かなりマズイ人物なのではないだろうか。 「×を喰い尽くしたら、満千留が腹を減らす。守人様の光が必要でしょう」  俺は食糧らしい。 「俺は、食事用ね……」  俺がため息をついていると、翔琉もため息をついた。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加