第一章 漂流記

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「……満千留の、唯一の殺さない食事ですよ。俺が、人であったならば、守人様と結婚するのですけど、×ですからね、契約の方が上でしょう」  どうしても、守人様の権利が欲しいらしい。 「まあ、俺は村では、氷渡と八重樫と結婚していることになっているし、そして志摩と結婚したいしな……これ以上は嫌だな」 「志摩さんとは、契約と結婚とで両方ですか……俺もそれにしたいな」  翔琉は、満千留を生かさないといけないらしい。 「俺と満千留も特殊なのです……」  ここは、村と外の境界線にある森のようであった。迷子の森とも呼ばれ、普通の人が迷い込んだら出る事ができない。森が深いわけではないのだが、幻影が見えるらしい。  境界線の森は、村側もあまり人が入って来ないので、ゆっくりと服を乾かしてしまった。しかし、光二を助けるためには、村に行かないといけない。 「俺は×なので、森は平気ですけど、上月はこのまま森から出るのは無理」  俺も、この森に迷うのだろうか。幾度か、きのこを採りに入った事があるが、無事に帰れた。 「上月は村に入った瞬間に、闇に反応して光るだろう?まだ、守人様が生きていると、相手に教えるわけにはいかない」  俺は光るので、森から出るなという意味らしい。 「光二さんを誘拐した犯人は、絶望の内に嬲り殺しにしないと……」  やはり、翔琉は怖い。しかし、闇の中では、俺も容易には動けない。夜目は効くが、昼のようには歩けない。 「そこで、俺が自分の部屋まで運ぶから、上月は志摩さんに食べられていて」 「翔琉の部屋?」  どうして、翔琉の部屋に行かなくてはいけないのだ。せっかく逃げ出したのに、結局、行き先は同じであった。 「俺の部屋は、外部からは全く見えないようになっているからさ。上月がいても、周囲には分からない」  深い闇で部屋を埋めているらしい。 「……まあ、分かった」  闇の中では、翔琉の方が上であろう。ここは、翔琉に従った方がいい。 「志摩、食べて」  志摩の手が、俺を包んで食べてから、吐いた。 「うえええ、やっぱり。不味い……」  志摩にとっては、俺は、相当不味いらしい。幾度も吐かれていると、少し惨めな気分に陥る。  俺がしょげているのが分かったのか、志摩は顔を出して、必死に謝っていた。 「私は、守人さんを愛しています。それは、揺るぎなく本当です」  しかし、再び食べて、吐いた。
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