第八章 愛は闇よりももっと 三

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 この家には誰もいないと気付くと、どうにか外に連絡しようとあれこれ試したが、携帯電話などない時代で、しかも、この家は庭が広く周囲と隔離されていた。  ワインを飲みながら待っていたが、遂に餓死してしまったらしい。 「事故物件だね」 「俺は、この別荘を借りただけで、買うつもりはない」  氷渡は、かなり怒っている。ただでさえ問題が多いのに、俺が増やしたらしい。 「警察が来るから、上月は車の中で寝ていて。慧一も連れて行ってね」  どうして、俺は隔離なのであろうか。でも、氷渡に睨まれて、俺は慧一と紗英を連れて、車で外に出た。  志摩も車に積み込んでいる。  近くにいい駐車場が無かったので、やや離れていたが、道の駅に止めてみた。既に車も止まっていたので、目立たなくていい。 「守人、又、何かしたのでしょ」  慧一が俺を疑っている。確かにそうなので反論できない。 「地下に死体がありました」 「ああ、あの家のホラーに扉を叩く音というのもあったし、それか……」  車が狭いので、眠るにしても体が痛くなりそうだ。 「紗英、助手席で眠っていいよ。守人、外で寝て」  外では寝られないであろう。でも、慧一は紗英の隣に俺が寝ているのは、嫌らしい。 「紗英さん、車の免許はありましたよね?」  田舎では車の免許が必需品になる。紗英が頷いたので、俺は鍵を渡した。 「俺は、志摩の中にいます。村に入っても大丈夫になったら、呼んでください」  問題は、志摩がうまく俺を飲み込んでくれるかだ。  食べ物を探すと、ポケットにチョコが入っていた。 「チョコ!」  志摩がチョコと幾度も呟いていた。 「志摩、食べて!」  すると、志摩の手が俺を一気に飲み込んだ。  無重力の空間に出ると、俺は周囲を見回す。別荘の地下は、警察が来て調査していた。氷渡と、八重樫が欠伸をしながら、説明を繰り返している。  ×の連中は、姿を消していた。氷渡は、別送の幽霊騒ぎの原因調査を頼まれて、八重樫と来たと説明していた。家の持ち主も呼ばれているので、明日も帰れないかもしれない。紗英が家まで運転して帰るのは可哀想なので、明日になったら、志摩の中から出よう。  でも、それまでは、志摩と一緒に過ごそう。  志摩がやってくると、俺を抱え込んでキスを繰り返す。この空間の志摩は、人間の姿をしている。
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