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第一章 天狗も空から落ちる
「『天狗』の起源は江戸時代までさかのぼる。当時、全国の寺社仏閣で神仏の御開帳――普段は見ることのできないありがたい仏像を、特別に見せてもらえるときだ――があると、一緒に境内の近くの参道で、参詣客目当てに見世物が開かれていた。巨大な籠細工か、当時は想像上の生き物とされていたゾウやラクダなんかも見世物になっていた。『天狗』もその見世物興行が始まりだと言われている。そうして始まった『天狗』が、なぜ今も庶民の娯楽として残っているかと言うと……」
小焼けはそこで一旦言葉を切ると、教室を見回した。
誰も聞いていない。机に突っ伏して居眠りをしている生徒、隣の席にこっそり手紙を回して、キャッキャと笑いあっている生徒、鉛筆で机に落書きしている生徒……。教室の後ろに立っている、若い女性教師に視線を送ると、気まずそうに目をそらされた。
小焼けは咳払いをし、再び資料に目を落とした。
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