Squall

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「雪国ねー。親父も、何でよりによって、これから寒くなるってときに北に出向になるかな。本人は栄転だっていばってたけど、実は左遷なんじゃないのっておふくろとひそかに話してるんだけど」  夏が終わるころ、転校することになった──。  まるで、いつもと変わらない冗談を言うのと同じ口調で、中学時代から五年来の親友である悠夏は、笑いながら聆生に告げた。今から一か月前──あと一週間で夏休みという時季のことだった。 『だからさ、夏休み中いっぱい遊ぼう。いろんな場所へ行って、いろんなことして』  その悠夏の言葉通り、ふたりは毎日のようにどこかに出かけては、些細なことで騒ぎ笑った。記念と称して何かとふざけて取り合った写メは、あっという間に携帯のデータフォルダ容量を大きく越え、結局、泣く泣く折半で購入したSDカードに落とし込んだままになっていた。  そうして、いよいよ悠夏の出発を明日に控えたふたりが最後にたどり着いた場所は、何の変哲もない、けれども中学生の頃、毎朝、競い合うように自転車を走らせた、この高架沿いの道路だった。 「せいぜい、凍死しないように気を付けろよ。大雪に埋もれて、とかまじでしゃれにならないから」 「あ、でもそれ実は楽しみ。ほら、俺、埋もれるほどの大雪なんて見たことないからさ」  聆生の様子に気付くことなくごく軽い口ぶりで答えて、悠夏が雨にかすんだ高架の向こう側の景色に視線を向ける。暗いせいか、すでに灯された遠くのコンビニの明かりを映して、水たまりがぼんやりと辺りをほの白く染めていた。
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