Squall

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「うひゃー、まいった」  傍らで、雨粒が浮いた髪を指で梳きながら、悠夏(はるか)が小さくぼやく。そのまま、一面重い雨雲が立ちこめた暗い空を仰いで、彼はひとりごとのように呟いた。 「……にわか雨みたいだな」  しかし、その声はすぐに、真上を通り過ぎる電車の轟音によってかき消される。架橋のすき間を縫って舞い落ちてくる蛍光灯の白い光片が、向かいのコンクリートの壁に砂嵐のような模様を描いて流れた。    同じように、半袖の腕を伝うしずくを手で払いながら、反対側の壁にもたれ掛かってその軌跡をぼんやりと目で追っていた聆生(さとき)は、ふと足もとから伸びる自分の影に気付いて、そちらに目をやった。  すぐ横に、今にも肩先が触れ合いそうなもうひとつの影があることを確かめると、ふいに泣きたいような妙な気分に捉われる。その感覚を振り払おうと、聆生は慌てて辺りに視線をさまよわせた。  と、悠夏の腰に巻かれた、青のチェックシャツが視界に入る。彼がたいそうお気に入りであるそれは、それほど突然の雨の被害を受けてはいないようだった。 「……寒いから、これ貸してよ」  そう言う勢いにまかせて、驚く彼の腰に手を回すとすばやく奪う。そして、こちらは多分に雨を含んで黒く変色した、グレイのTシャツのうえから袖を通した。 「あのなー」 「いいだろ、別に。減るもんじゃなし。あー、あったかい」
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