Squall

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 憮然とした表情で自分を見つめる悠夏に不敵な笑みを見せてから、聆生は自分のよりひと回りは大きなシャツの袖口に頬を寄せる。けれどそこに、雨の香に混じってかすかに残る悠夏のにおいを感じ取ると、先程の落ち着かない気分がふたたび沸き起こってきた。 「くっそー。昔は俺と大差なかったのに、いつの間にこんなに図体でかくなったんだ、おまえ」  それを悠夏に悟られたくなくて、袖口に顔を押し付けたままの格好で毒づく。  今、聆生をひどく混乱させている感情の名前を悠夏は知らない──知らないままでいい。 「ああ、そう言えば、聆生はあのころと大して変わってないよな。相変わらずかわいいお手頃サイズで」 「俺は徳用パックの柿ピーか? うるせーな、ただでかけりゃいいってもんじゃないんだよ。柿ピーだってあんなに小さいのに、十分自己主張してるだろ? 要は中身だっつーの。な、か、み!」 「なんで柿ピーなんだよ。……まあいいか。でもさ、『大は小を兼ねる』とも言うだろ? そうだな……例えば──」  そこでふと途切れた悠夏の声に顔を上げると、長い指がくるくると楽しげに聆生を──正確には、聆生が羽織っている自分の青いシャツを示していた。目の前ですっと伸びた指先に反射的に一歩退くと、それを見ていた悠夏の口許がにやりと歪められる。 「今のおまえがまさに生き証人だ、聆生。とてもじゃないけど、俺におまえの服は着られない。そういうことだよ」  言って、悠夏がからかい混じりの表情で聆生を見つめる。おかしさに揺れる悪友の見慣れた鳶色の瞳を、聆生は負けじと睨み返した。
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