プロローグ

3/36
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
しばらく、二人でミルクティーをすすった。部屋が急に静かになった気がする。  彼女は紅茶を半分程飲んで、ふう、と息をついた。 今初めて気がついたように、きょろきょろと僕の部屋を見回す。 「・・・育ちゃんの部屋っていつもすっきりしてるのね」 「物があまりないだけだよ。十子ちゃんのとこはどうなの」  そう言えば、十子ちゃんの部屋にはあまり行った事がない。小さな頃から彼女が僕の部屋に来る事はあっても、彼女の部屋にははあまり入れさせてもらえなかった。 「きれいな時はものすごくきれい。汚い時はその逆」 「・・・ものすごく十子ちゃんらしいね」 「何、そのらしいって」  僕は慌てて話の矛先を変えた。 「で、今日は何だったっけ」 「だから有香がネットで、じゃなくて・・・、数学!そうそう、数学の宿題教えて欲しいの! 」 「はいはい」  十子ちゃんは勢いよくクッションを後ろに置くと、足元にあった自分の鞄を引き寄せた。中から数学の教科書とノートと筆記用具を出し、立ち上がって僕の机へ行き、当たり前のように座る。僕も自分のザックから数学の教科書をとり出して、当たり前のように机の脇にあるベッドに腰を下ろした。  十子ちゃんが真剣な顔で教科書を調べ始める。 「ええとね、どこか分からない所があったのよ。こういう事はね、すぐやらないと」  僕は思わずくすくす笑った。 「何よ」 「何でもないよ」  僕達はずっと昔からこうしている。これからも、ずっと変わらないだろう、と思っている。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!