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「早生が脅してくんねん」
須郷はそう話し出した。滂沱の涙を流す須郷を私は家に連れ込んでとにかく話を聞くことにした。
「もう全部世間に言いたいらしくて、俺は体だけの関係やと思ってたし向こうもそう思ってたはずやからさ」
「まあいつか本気になるとは思ってたで」
私は自分のほほがにやけるのを抑えるのに必死だった。
不倫の事実が世間に出たとなっては、須郷は私を疑うことになるだろうと思っていた。
私は正直なところ、須郷に疑われること、信じられなくなることが怖かった。
「でもそうなったら世間は許さんやろしさ。代表入りもできるやろうか。まじで最悪や。今までずっとよかったのに。ていうか思ってたなら言うてくれよ」
「言ってもお前は聞かへんやんか。とにかく、ダメージを小さくせな」
そういって私は窓の外を見る。遠藤が望遠カメラでカーテンから除く室内を撮影しているのがかすかに見えた。
「ちょっとトイレ行ってくるわ。私に任しとき」
久しぶりに昔のように須郷を支えるときが来たようだ。
先ほどまでこいつの人生のはしごを外そうと思っていたのに、頼られたとたんにこいつを支える気になっている。
現金なものだ。我ながらあきれた。
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