26、友達になんてなれない

2/8

113人が本棚に入れています
本棚に追加
/124ページ
 東條の姿を追っているだけで2時間があっという間に過ぎ、ラストシーンのイギリスの風景が映し出される。  イベントの主催者が制止するのも聞かずに、競パン姿の古賀がプラットフォームの縁に足指をかける。両手を広げ、天を仰ぎ見て嬉しそうに笑うと、腕をまっすぐ振り上げて、ジャンプする。  そして、崖の下から狙っていたダイブのカットになるのだが、プラットフォームでの東條の顔のアップがワンカット挿入されているだけで、あとは全て、柳森のカットのように見える。  初めての撮影で、素人同然の柳森に判別できないだけなのかも知れないが、両手を広げたバックショットも、腕を振り上げた後のサイドからのカットも、自分の姿のような気がした。  その後、水中から上がってくる東條の満面の笑顔に観客からの大歓声が起こり、東條が片手を高く掲げる。その映像に、エンドクレジットが流れてくる。  最初に、東條の名前がせり上がってきて、キャストやスタッフが読み切れないほど並び、その終わりの方で、柳森は、自分の名前を見つけた。  名前の上の行には、『高飛び込み指導・スタント/クリフダイビングスタント』と、記されている。  柳森は、一時停止させて、そのクレジットをしばらく眺めた。  自分を必要としてくれる人のための初めての仕事が、映像だけでなく、名前として残ることに、言い知れない感動を覚えた。  もう1枚のDVDと同封されていた箱の中身が気になったが、予選前のハードな練習で疲れていたこともあり、そのまま遠征先に持って行った。
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!

113人が本棚に入れています
本棚に追加