26、友達になんてなれない

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 2枚目のDVDを見たのは、予選前日のオフタイムだった。  動画ファイルがいくつか入っていて、ファイルナンバーの早い方から開いてみると、水村が、練習期間にスマホで撮影した、柳森のダイブだった。  飛び込むタイミングにカメラが付いていかず、フレームからはみ出しているカットなども入っていたが、飛び込む度に、水村が、「ひゃー」「うわー」「すげー」などと、感嘆の声を上げる。その合間に、「調子悪そうだな」と、ぼそっと呟く、東條の声が入っていた。  2つ目のファイルは、本番でのダイブシーンだった。  ハイスピードカメラ用に、柳森だけがダイブしているところを、観客席からノーカットで撮っている。撮影者の声は全く聞こえないが、柳森が飛び込み台に上がるところから、プラットフォームでスタンバイするところ、ダイブしてプールサイドに上がるところまで、途切れることなく撮影されていた。階段を上がる時の習慣も、飛び込む前の癖も全て収められていて、東條が、この映像を見て、自分の癖を主人公のキャラクターとして採り入れてくれたのだと、柳森は思った。  3つ目のファイルを開くと、10メートルのプラットフォームから男がいきなり飛び降りるところから、動画は始まった。  プラットフォームから水面まで入る広いサイズで、手足をまっすぐ伸ばし、足から棒飛びで着水する。自分に似ている体型のその男が誰であるか、柳森には直ぐに分かった。  飛び込んだ後も録画状態になっていたらしく、プールの映像に、「あんなことしても、役者には何の役にも立たないだろ」という、剣のある男の声が録音されていた。  「西脇さん」と、水村の声がする。  敵意をむき出しにした男の声は、西脇信悟だった。  「あの映画の本、俺が先に見つけたんだぜ。蒲生さんに、俺の方が適役だって直訴したのに、譲ってくれなくてさ。これであの人も完全復活だな」  「お陰さまで、メチャクチャ評判いいみたいです」  「お陰さまって何だよ。お前が、何で、お陰さまっていうんだよ」  「ああ、すいません。‥‥でも、西脇さん。どうして、こんなところにいるんですか。今日、オフですよね」  「たまには、敵情視察も必要だろ。‥‥あっ、あの人には言うなよ」  遠くから観客席に向かってプールサイドを歩いてくる東條の姿が見えると、西脇は、カメラの前を横切って、姿を消した。
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