26、友達になんてなれない

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 限界だった。  「わーーーーーーん」と、声を上げて、柳森は泣いた。  東條が、「良かったな」と言ってくれただけで、この1年のあらゆる葛藤が、消えていくようだった。自分の我が儘な選択を、東條が認めてくれたことが、何より嬉しかった。  ひとしきり泣いた後で、最後のファイルを開くと、東條のコメントの続きの映像が入っていた。  「撮影、ありがとな。今日はもういいわ。俺、一人で帰るから」  水村にスマホを返した時に、誤って録画ボタンをタッチしてしまったようだった。  「すみませーん、東條さん。もう1回いいですか? さっき、録画するタイミングが遅かったんですよねえ。それに、ちょっとブレちゃってて‥‥」  「はああっ? ふざけんなよ。あれは、俺の渾身のダイブだったのに。簡単そうに見えてなあ、バランスとるの難しいんだぞ。まっすぐ落ちるだけで、足にすげえ衝撃、かかるんだからな」  「そんなに怒らないでくださいよ。東條さん、最近、僕に、厳しくないですかあ」  「厳しくすることにしたんだよ。俺ら、体張った商売だからさ」  「ええーっ」  「あっ、それから、いらない映像は、全部カットしとけよ。俺のコメントと飛んだところだけでいいからな」  「わかりましたあ」  気の抜けた返事をする水村が、ノーカットの映像を送ってきたと知ったら、また東條に怒られそうだなと、柳森はクスクスッと笑った。  「仕方ねえなあ」と、文句を言いながら、東條は飛び込み台に向かう。そして、足取り軽く10メートルのプラットフォームまで上がると、「いくぞーっ!」と、水村に向かって叫んだ。  プラットフォームの縁に足をかけ、両手を高く揃えて上げると、思いっきりジャンプして、足から着水する。1度目のダイブより、綺麗に跳べていた。  何をしても絵になる東條が、柳森は恋しかった。  会いたくて、恋しくて、東條との楽しかった日々を思い出す。こんなこと考えちゃいけないと自分を戒めながらも、頭から振り払うことができない。  グチャグチャになった感情を整理できないまま、柳森は、同封されていた箱のパッケージを解いた。  包み紙の間に挟まれていたメモがヒラヒラと落ちてきて、箱の中には東條の物に似たネックレスが入っている。
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