26、友達になんてなれない

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 『お前の新しいお守り。もっと早く送りたかったんだけど、似ているのが見つからなかった。お前は、ずっと大事な友達だからな』  メモには、東條の字で、そう書かれていた。  「やっぱり‥‥、また勝手に、ひとりで思い込んでる」  涙の跡を?に残したまま、柳森は悲しそうに笑った。    オーストラリアの予選大会は、世界各国から大勢のダイバーが集まってきていた。  出場選手の名前が読み上げられても、柳森は、控室でクロスを握ったまま、じっとしていた。  「強力なお守りらしいな。だけど、ソウスケ。もう時間だ」  チームメイトが、柳森の肩を叩く。  「そうだね」  柳森は、クロスにキスをして、飛び込み台へと向かった。  先に行った地元の有名選手を観客たちが見つけたらしく、一斉に歓声が上がる。観客たちは、飛び込み台が設置された橋の両岸と、川へと下る長い階段、階段の先に特別に設えられた救命ボート用の桟橋だけでは足りず、自家用のボートまで持ち出して場所を確保する者もいた。  「お互いに、頑張ろうぜ」  柳森の名前が呼ばれると、チームメイトのアレックスが、拳を胸の前に差し出す。その手に自分の拳を軽くあてると、柳森は、「そうだな」と言って、飛び込み台に上がった。  オーストラリアの澄んだ空気を太陽光が透過し、緩やかに流れる川面をキラキラと照らす。少しだけ高くジャンプしたら、川の両岸に広がる濃い緑の天辺までも手の中におさめられそうだった。  柳森は、大きく息を吸った。  天を仰いでいた顔を川面に向けると、視線の先の桟橋を見て、柳森は頭を振った。  幻覚か。それとも願望が引き起こしたデジャヴだろうか。  大勢の観客に埋もれているのに、そこだけは、スポットライトでもあたっているように、ひときわ明るく輝いていた。  柳森は、胸に手をあてて、控え室で外してきたクロスを、頭の中で握りしめた。  そして、息を整えると、飛び込みのポーズをとり、プラットフォームを飛び出した。回転にひねりを加えた体が、綺麗に足から着水する。  アウェーの選手にも、観客たちは大きな拍手を送った。
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