26、友達になんてなれない

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 柳森は、直ぐに水面に顔を出すと、ボートの上の救急隊にOKサインを出し、桟橋へと泳いだ。周りの誰もが拍手や指笛で讃えてくれても、彼には、ただ一人の男の笑顔しか目に入らない。  「東條さん!」  柳森は、濡れた体のまま駆け寄ると、抱きつくより先に、唇にキスをした。  周囲の観客たちから、新たな歓声が上がる。  「おい。皆んな、見てるぞ」  唇が離れると、東條は、困ったように言った。  「僕は、構いません。チームメイトには、話してありますから」  「はあっ?」  「僕、友達になんてなりませんよ。別れるなんて、言ったつもりもありません。東條さんが、勝手に思い込んでるだけですからね」  「だって、お前。俺には、待たなくていいって‥‥」  「待ってて欲しいとは言えない、って言ったんです。東條さんに、好きな人ができたら、それは仕方ないって‥‥。それでも僕は、ずっと東條さんのことだけ思ってますから。この体は、ずっと東條さんだけのものですから」  柳森が、小犬のような笑顔で、東條を強く抱きしめる。  「バカッ。お前は言葉が足りないんだよ」  抱きしめられながら、東條は、そっと囁いた。  「あっ、東條さん‥‥」  「その先は、口にするなよ。‥‥しょうがないだろ。お前が、こんなところで、俺だけの体だなんていうからだ」  股間のモノが膨らんで、柳森の股間にあたっていた。  「お前は、もう行けよ。みんな待ってるんだろ。俺は、コレ、何とかするからさ。あーあ、今のキス、誰も撮ってないだろうな。こっちの人間だって、SNSにアップされたら一発なんだからな。また、蒲生さんに怒られるじゃないかよ」  「僕が一方的にしたんですから、それでいいじゃないですか。東條さん、言い訳は得意でしょ」  「ま、まあ、そうだけど‥‥」  「じゃあ」と行きかけて、柳森は振り向いた。  「東條さん。終わったら、食事しましょう。遅くなったけど、今日なら、ずっと前の約束、果たせます。赤ワインも、飲めますよ」  「ああ。一杯だけだけどな」
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