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「こちらとしては、辛島社長と柳森さんの全面的なご協力をお願いすることになるわけですが、なにぶん、東條の体型のこともありますので、そこらへんの確認が必要かと思いまして‥‥」
「ええ。それで、私も、こうして本人を連れてきたんです。こいつも、高飛び込みの選手としては異端でして。184センチの選手なんて、まず、他にいませんからね。東條さんが185センチということでしたから、もう、こいつの他にはいないだろうって話でして‥‥」
辛島が緊張した面持ちで、柳森の肩をパシンと叩く。
その時ちょうど、ガラスドアの向こうに、東條が姿を現した。
水村がスマホの時計を確認すると、約束の5分前だった。蒲生の作戦が成功したことに驚き、思わず顔を覗き込むが、蒲生は東條を一瞥しただけだった。
東條は、ドアを開けるなり、「すみません、お待たせしちゃったみたいで」と、頭を下げた。そして、水村を見つけると、「嫌だなあ。俺、迎えに来てくれるの待ってたよ」と、辛島たちを意識しながら、彼の肩を叩いた。
「俺、時間、間違えたかと思って。事務所に電話したら、もう、いらっしゃってるって、デスクの子が言うじゃないですか。慌てて、タクシー飛ばして来ましたよ。でも、良かった、大通りの工事終わってて。ここの前の道、渋滞するんですよねえ」
辛島の顔と、ジャージ姿の柳森をチラッと見て、東條はパイプ椅子に座った。柳森の顔に、東條が何も反応していないことに、蒲生は、ひと先ず胸を撫で下ろした。
「いやあ、こっちが、早く来すぎたんです。東條さんに謝られたら、こっちが恐縮してしまいますよ」
東條の明るさにつられるように、辛島は表情を崩した。
「それにしても、東條さんがフランクな方で良かった。実を言うと、こいつ、‥‥柳森って言うんですが、スタントの経験はほとんどありませんでね。いえ、飛び込みはプロ級ですよ、プロ級」
そう言われて、柳森は俯いた。オリンピックの選手にも選ばれたことがないのに、プロ級と言われる理由が分からない。そもそも、柳森の知識が正しければ、今でも高飛び込みにプロの選手などいないはずだった。
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