3、ビキニパンツの中身

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 「だけど、スタントがねえ‥‥。いえ、能力はあるんですよ。ただね、最近のスターさんは、多少のアクションなら自分でやっちゃうでしょ。皆さん、運動神経がいいんですよね。まあ、合成が楽になって、ワイヤーを消すのが簡単になったっていう、技術的なこともあるんですけどね。かといって、ヤられ役をやるには、目立ちすぎるんですよね、こいつの場合。私が言うのも何ですけど、この通り、ヘタに見た目がいいもんで。スターさんを食っちゃうって、嫌がられちゃいまして。だから、全然実績ができないんですが、そういうのを気にされるスタッフさんが、これまた多いもんですからね。やっぱり、この業界、実績が全てでしてね。プロフィールにヒット作の名前が上がってないと、直ぐはじかれちゃうんですよ。何かあったら、結局はテレビ局や制作会社の責任問題になるって言ってね。我々は、多少の怪我は日常茶飯事でね。場合によっちゃあ、勲章みたいなもんなんですがね」  辛島の舌はなめらかだった。東條がフランクであることと、柳森の実績がないこととは何の関係もないはずだが、東條ならノーは出さないだろうと、勝手に思い込んでいるかのようだった。  「それで、今はどんな仕事をされてるんですか? 宣材には、交通安全指導とか着ぐるみショーとか書いてありましたが」  蒲生が確認すると、辛島は何故か自信あり気に言った。  「ええ、それは今もやってますよ。柳森の動きは評判いいですからねえ。大柄だから、動きさえよければ、迫力があるんですよ。それに、殺陣や飛び降りのトレーニングも欠かしてませんしね」  「ですが、今回は、高飛び込みですよね。3年前に辞められたということでしたが、それだけトレーニングから離れると、それなりの準備も必要なんじゃないですか?」  「任せてくださいよ。それはもう、こいつの体を見て貰えば、一目瞭然ですから。なあ、柳森!」  急に話を振られて、柳森は、きょとんとした顔で「体ですか?」と答えた。  「そうだ。お前、さっき、準備できてるって、言ってただろう」  辛島が慌ててフォローすると、柳森は「すみません。勘違いしました」と、頭を掻いた。  「自分の全てをお見せしろと言われたので、こういうことかと思いまして‥‥」と、スポーツバッグの中から、丸めた賞状や小ぶりのトロフィーを取り出す。  辛島が、マイッタとでも言うように、額に手を当てた。
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