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「いやいや、そういうのは、ほら、ジュニアの頃の話だしさ。俺が言ったのは、いつでも飛び込める体ができてるってことでさ‥‥。もしかして、競技用のパンツ、履いてきてないのか?」
「はい‥‥」と、柳森は申し訳なさそうに答えた。
だが、その場にいる者たちの視線が自分に集まっているのを感じると、「競パンははいてませんが、このままでも良いですか」と言うなり、ジャージの上下をあっという間に脱ぎ捨てた。そして、黒いビキニパンツ姿のまま、気を付けの姿勢をとった。
長身の体全体に、適度に筋肉がついている。シックスパーツに割れた腹筋は、いかにもスポーツ選手らしかったが、肩まわりの筋肉は大きすぎず、あまり広くない肩幅が、飛び込み選手特有の体型をしていた。
蒲生は、柳森の全身を、水村に撮影するように言い、東條の様子をうかがった。
さっきまで椅子の背もたれに寄りかかっていた体が前のめりになり、わずかに尻が浮いている。そして視線は、体の真ん中だけを隠す小さなビキニパンツに釘付けになっていた。
「東條」
蒲生は名前を呼びながら、東條の肩に手を置いて、体を椅子に押さえつけた。
「あっ、ああ‥‥。さすがスタントマン。羨ましいくらい、いい体してますねえ。どうやったら、そんな体になるのか、教えて欲しいもんだ」
ビキニパンツの中身を想像しながら、上の空で話す東條に、辛島は言った。
「大丈夫。撮影まで3ヶ月もありますから、こいつに近い体にできますよ」
「はあッ?」
「元飛び込み選手の役ですもんねえ。全身を映した時に、違和感がない程度には鍛えないとですもんねえ」
辛島はそう言うと、蒲生に向かって、もうひと押しした。
「どうですか。頭の大きさも体のバランスも、東條さんとピッタリでしょう。東條さんが主役を演られるなら、柳森以外いないと思いますよ」
「そうですね‥‥」
色々な意味で不安はあるが、蒲生はとりあえず同意した。
「ちょっと待った、蒲生さん。俺、この体になるには、3ヶ月じゃあムリですよ。それにほら、片付いてない問題もあるじゃないですか‥‥」
東條は、蒲生に助けを求めた。
断るつもりで来たのに、スタントマンまで同席していて、主役であるはずの自分の意思と関係なく話が進んでいる。こうなると、自分に連絡をくれなかったことだけでなく、黒のビキニパンツまで蒲生の仕込みではないかと勘ぐってしまう。
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