3、ビキニパンツの中身

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 「蒲生さん」  資料を読むふりをして無視する蒲生に、東條がもう一度声を掛けると、パンツ姿のままの柳森が近づいてきた。大股でズンズンと歩く柳森の黒いビキニパンツが、椅子に座った東條の目の前に急接近する。そして、「すみません。ちょっと立ってもらってもいいですか」と頭上から声をかけられて、東條は、片腕を持ち上げられた。  「あ、ああッ?」  パンツから視線を外せないまま、東條は、されるがままに立ち上がった。  「失礼します」  柳森は、不意に東條のポロシャツの中に手を滑り込ませると、腹の辺りをさすった。  「ふッ、うふんッ‥‥」  突然の感触に、東條の鼻から息が漏れる。  「ナ、ナニ、ナニッ?」  恥ずかしさを隠すために強い口調で問うと、柳森は、「大丈夫だと思います」と答えた。  「高飛び込みで最も重要なのは腹筋です。基本的な筋肉は付いているようですから、トレーニング次第で、僕のような体になると思います」  「ああ‥‥、そうですか。それは良かった」  東條の秘密がバレてしまうのではないかと焦った蒲生は、誰も気づいていないことにホッとして、相槌を打った。  東條は、「誰が、お前なんかの体になるかよ」と、心の中で悪態をつきつつも、引き返せない雰囲気を感じていた。  またしても蒲生にしてやられたと悔しがっても、パイプ椅子を蹴って、この場を立ち去るだけの度胸はない。仮に、今、適当な言葉でこの場をやり過ごしたところで、逃げ場がないのは明らかだった。  打ち合わせが終わったガラス張りの部屋で、東條は、RYOにメールした。  『いつ帰ってくる? 成田に迎えに行くから、連絡くれ』  どこにいるかも定かでない相手からの返事を待ったが、暫くしても返信はない。  「あーあ。あいつ、今頃、どの穴に突っ込んでんだろ。やっぱり、別の男が必要なんじゃないの、俺‥‥」  東條は、机に突っ伏して呟いてみた。
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