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ウォーミングアップをしながらも、東條は、藤野が去っていった空間で、どんな風に時間をやり過ごそうかと考えていた。
もう1日くらい居てくれたなら、夕方の早い時間にトレーニングが終わっても、一戦交える余裕はある。存分に味わった快楽を、次に会う時までのオカズにすることもできる。
だが、藤野が別の誰かのところに行ってしまった以上、自分は、夢精のような実感の薄い快楽を思い出しながら、せいぜいオナホに頼るしかないだろう。
それでも、ひとりの夜は長い。
トレーニングとオナニーの疲れで眠ってしまっても、夜中にはきっと目を覚ましてしまう。そこから街が動き出すまで、自分は静まり返った広い空間で、ひとり時が経つのをやり過ごすしかない。
トレーニングをする前は、誰もいない空間が当たり前だったのに、今は、そんなふうに考えてしまう。夕方からのトレーニングは、自分にとって良いライフサイクルをつくってくれていたのだと、東條は思った。
そんなふうに考え出すと、早い時間のトレーニングが益々憂鬱になり、怠い腰がいっそう重くなる。
だが、そんな気分を、柳森ひと言が一変してくれた。
「一緒に夕食、いいねえ」
東條は、思いがけないご褒美に、全力でサーキットトレーニングを始めたのだった。
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