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7、あなたのためなら
「赤と白、どっちが良いかな」
シャワーを浴びて部屋着に着替えた東條は、ワインセラーの前で散々考え抜いた挙句、選りすぐりの赤ワインと白ワインを1本ずつ手に持って、キッチンに立つ柳森に声をかけた。
「はい?」
東條の質問の意味がわからない柳森が、料理を並べたテーブルから顔を上げる。
テーブルの上には、山盛りのサラダと蒸籠で蒸した鶏胸肉、ひじきの白和え、納豆、野菜たっぷりの味噌汁、そして、茶碗に半分だけ盛られた玄米ご飯が並べられていた。
全体的に地味な色合いの素朴な和食に、東條は、顔の高さまで掲げていた両手のワインを引っ込めた。
「ワインを飲みたいなら、赤にしてください。ポリフェノールが含まれてますから。でも、量はグラス一杯だけです」
にこやかに柳森が言う。
「いや、せっかくの和食に、ワインはちょっとね‥‥。また、今度って事で‥‥」
ブツブツ言いながら、東條はワインセラーに引き返した。
トレーニングを終えて、東條が、「さあ、どうしようか?」と聞くと、柳森は、「東條さんのお宅に行ってもいいですか?」と言った。
東條は、クールダウンのジョギングをしながら、個室の予約が取れそうな店を、頭の中でリストアップしていた。
若い柳森には、ボリュームのある食事がいいだろうか。それとも、スタミナをつけるとしたら、やっぱり鰻か? いや、スッポンもいいか? だけど、食べた後でムラムラしたら困るよな。最近、溜まってるし‥‥。
下らないことを考えながら走ると、ジョギングはあっという間に終わっていた。
そこで、柳森の意見も聞いたのだが、彼は自分の家に来たいと言う。
うーん、まあ、それもいいか。どっちにしてもシャワーを浴びたいし、部屋着のまま家メシっていうのも悪くない。そういえば、シャンパンのストックあったかなあ。撮影の成功祈願も兼ねて、二人で飲んじゃおうか。いや、それより、食事の後で、DVDとか見ながら、バーボンでのんびりするのも悪くないな。
東條は、ひとりで勝手にプランを考えていたが、柳森は、「ちょっと待っててください」と、駐車場に東條を残したまま、目の前のスーパーに入って行った。
20分ほどで戻ってくると、2シーターの車の後ろに大きな買い物袋2つを詰め込み、「お願いします」と、助手席に座る。
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