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そこまで音声が流れたところで、蒲生の前に座っていた東條が、レコーダーの停止ボタンを押した。
「もう、いいでしょ、このへんで。この先、ずっと、俺の喘ぎ声だけですよ。まあ、聞きたいって言うなら、別にいいけど。‥‥俺、酔っ払って色々喋っちゃってたかもしれないけど、ヤバイことは言ってないと思いますよ、多分」
この状況から何とか切り抜けようと多弁になる東條を、蒲生は鋭い目で睨みつけた。
「こんな音声ファイルが送られてきて、ヤバくないわけないだろ。どういうことか、説明してもらおうか」
凄みのある蒲生の低音が、事務所の会議室に響く。
だが、それに臆している場合ではなかった。
事務所の中での東條の立場が、今以上に降下するのを、少しでもとどめなければならない。無様な喘ぎ声を聞かれたことを、恥ずかしがってはいられなかった。
「いやあ、最近の風俗の子って、プロ意識が足りないですよねえ。盗聴してるなんて、ビックリですよ。しかも、客を脅すって、どういうつもりですかね。今の若い奴って、みんな、そうなのかなあ。もう、参っちゃいますよ。ねえ、蒲生さん」
とりあえず、重い空気を振り払おうと、思いつくまま口に出してみる。その間に、どう弁明すべきか考えようとしたのだが、蒲生には通用しなかった。
「『若い奴』って、未成年じゃないだろうなあ?」
「いやあ、まさかまさか。26、7って、確かホームページに‥‥」と言いかけて、東條は口ごもった。
店のサイトを確認されたら、年齢がバレてしまう。嘘をつく時は、ディテールこそ事実でなくてはならない。ここは、正直に話すしかないだろう。
「いや、それは最初に目を付けた奴か。あいつは‥‥、ハタチとか、そこらへんだったかな。‥‥とにかく、法律は破ってないし、仮に‥‥、仮に未成年だったとしても、それは、ほら、店側の問題でしょ」
「つまり、ロケ先で、ホームページの情報を鵜呑みにして、若い男を買ったということか」
「まあ、そういうことです、かね‥‥」
「それで、お前だっていうのがバレて、仕掛けられてた盗聴音声で脅迫されてると」
「そういうことに、なりますよね‥‥。だけど俺、身バレするようなこと言ってないですからね。偽名使ったし、ここ数年は、若い奴が見るようなドラマには出てないから、あんなド田舎で簡単に顔バレするはずないし」
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