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「スポーツマンだからって、全く勃たないわけじゃあるまいし、ヤルことはヤルだろ。普段鍛えてる分、腰だって強そうだし。相手が男か女かは別にして、ハマったら、案外凄いんじゃないの」
「知りもしないで、おかしなこと言うなよ」
「へえー、随分入れ込んでるんだなあ。俺は正直、隼人が誰彼構わずオイタしなけりゃ、彼の性癖なんてどうでもいいんだけどさ」
この間から、「新しい遊び相手」だとか、「誰彼構わず」だとか、まるで自分が浮気でもしているような言われ方が、東條には、腑に落ちなかった。自分はフリーセックスを標榜しているのに、何の関係もない柳森まで誤解されるのは、どうにも割り切れない。
口を閉ざした東條に、藤野は意味ありげに言った。
「これじゃあ、隼人のマネージャーが心配するのも、無理ないな」
藤野の口から蒲生の話が出たのは初めてだった。
「‥‥蒲生さんが、何か言ったのか?」
「いや。突然電話がかかってきて、最近会ってないのかって聞かれたから、何かあるなって、来てみただけ。‥‥でも、まあ、良かったんじゃない。これで、キスマークつけても問題ないってことだろ」
藤野はそう言うと、東條の首に唇を近づけた。だが、その唇は、東條の手のひらに阻まれる。
「ごめん。この仕事だけは、手を抜けないんだ。それに、もしも彼が仕事を降りるって言ったら、映画の製作自体がなくなってしまう。これが失敗したら、俺、この業界にいられなくなるんだよ」
「だったら戻って来ればいいだろ。また一緒に仕事しようよ」
優しい言葉で抱きしめる藤野に、東條はため息で答えた。
飛び込み台の様相に呆然と立ち尽くす東條に、「更衣室に案内します」と、柳森は言った。
だが、東條は、先導しようとする柳森の腕を掴んだ。
「いやあ、海パンが見つからなくてさあ。それに、ちょっと風邪気味で、水に入るのは、どうかなあと思ってね。主治医も、今日はやめておいた方がいいって言うもんだからさ」
大げさに表情をつくりながら、東條は柳森の顔色を伺った。
「そうですか。分かりました。水に入るつもりはありませんでしたが、今日は、トレーニングは休みにしておきましょう。ただ、飛び込み用のプールを独占できる時間は限られますから、とりあえず、上まで行ってみましょう」
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