10、触ってもいいですか

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 都心に近い大学病院のベッドに、柳森は横たわっていた。  辛島が、「よくあることだから」と、地元のかかりつけ医に診せようとしたのを、東條が懇意にしている医師の務める病院に連れてきたのだった。  医師が、「ただの打撲でしょう」というのを、何とか説得してMRIを撮らせ、「明日まで様子をみさせて欲しい」と、無理を言って個室ベッドをおさえた。  柳森は、検査が終わってベッドに横たわると、直ぐに軽いいびきを立てて寝入ってしまった。  「いやー、本当に申し訳ないことです。あいつ、普段はこんなことないんですがね。ここ何日か、集中力が落ちていて、注意はしてたんですがね。東條さんの前で、みっともない姿をお見せしました。それに、こんな立派な病院まで手配してもらって」  辛島は、東條に頭を下げた。  「いえ、柳森君に何かあったら、撮影に支障をきたしますから。それに、網膜剥離の件もありますからね」  「えっ?」  「再発したら、怖いじゃないですか。網膜剥離って、再発することもあるんでしょ。それで、今度はスタントマンを辞める羽目になったら、彼、またヤケになってしまうかもしれないし‥‥」  辛島は、「あ、ああ、そうですね」と頷き、「あの程度のことで、再発したりしませんよ。もう、すっかり完治してますから。問題ないです」と、顔を引きつらせて答えた。彼は、何気なく口にした病歴を、東條が覚えていたことに驚いていた。  「でも、脳内出血がなくて安心しましたね。やっぱり、検査しておいて良かった」  東條が、安堵の表情を浮かべる。  辛島は、「いや、本当に、東條さんのお陰です」と言うと、会社に報告の電話をかけに、部屋を出ていった。
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