ある晴れた日の書斎から

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「……まぁ。いろいろあったからな」  ヨウちゃんは立ちあがって、つくえの上でひしめきあってる大量のビンを、後ろのたなの上にならべてる。  理由は……話したくないんだろな……。  六年の学校行事の卒業キャンプが終わって。それからまた、あたしたちは、教室でも、少しずつしゃべるようになった。    でも、なんだろ。いつも、ききたいことの十分の一も、きき出せてない気分になる。  ヨウちゃん、前からそんなに、自分のことを話すほうじゃなかったけど。  まるで、数週間の空白の後遺症みたいに、だまりこまれちゃうことも多くて。  ねぇ、わかってる?  あたし、ちゃんと、およばれして、この書斎に来たのって、一ヶ月ぶりなんだよ?  目の前を見たら、ゆかに大学ノートが落ちていた。  ページが開きっぱなし。真ん中にちょこちょこっと、ハーブの葉っぱがどうこういうメモが、書きとめてあるだけ。 「あ~あ。ノートのつかい方、もったいな~い」  ページを閉じようとして、ハッと手をとめた。  ノートの右上の余白に、消しゴムで消したあとがある。  紙がボコボコになるぐらい力を込めて書いたみたいで、軽く消しゴムをかけたくらいじゃ、ちゃんと消えてない。  ……え?「綾」って書いてある……?    ……あたしの名前。
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