ある晴れた日の書斎から

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 横からパッと、ノートを取りあげられた。  見あげたら、ヨウちゃんは、手に持ったノートをパタンと閉じてた。無表情のまま、サクサク歩いて、つくえにまわって、ノートを一番下の引き出しにしまい込んでる。 「綾、悪い。あと、ゆかのモップがけ、お願い」  さらっと軽い声。 「……う、うん……」 「キツネにつままれる」って、きっとこんな感じ。  ヨウちゃんはもう、つくえのかたづけにもどっちゃって。  ……なに考えてるの……?  あ。また、もやもや。  なんで、あたしの名前を書いたの?  書いたこと、わすれちゃった?  それとも、わすれたふりして、気づいてないことにしてるだけなの?  う~。ききたいけど、きいたらいけないみたいな……。  部屋のすみを見たら、天井までそびえた本だなの前に、モップと水入りバケツが置いてあった。  水につけたモップをぎゅっぎゅってしぼって。ゆかをモップでごしごし。  この数週間。ヨウちゃんは、ずっとひとりで戦っていた。  妖精の黒いタマゴが向けてくる、邪視と。  あたしは、なにが起こったのか知りたくて。でも教えてもらえなくて。知りたくて、知りたくて、道理を破って、出し抜いて、ヨウちゃんを傷つけたりして。  とにかくもう、めちゃくちゃで。  ……二度と、この部屋にもどってこれないと思った……。  木目のゆかに落ちる格子状の窓明かり。古びた本の懐かしい香り。  ふっと右目から、涙がこぼれて、ほおを伝った。  って、思ったら、左目からも、涙がどんどんあふれてくる。
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