ある晴れた日の書斎から

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 うわっ!? なにっ!? ヤダっ!  どうしてこう涙って、一度出はじめたら、とまらないんだろ?  とまれって、目に力を入れても、歯をかみしめても、あとからあとからあふれてくる。  どうしよう! ヨウちゃんにはぜったいに知られたくないっ!  泣いちゃうとか。意味わかんないし。  あつかいにこまられるだけだし。  それに、ヨウちゃんはぜんぜんふつうなのに、あたしばっかりで、くやしい……。  背中を向けて。なんにもないふりして、モップがけ。  鼻をすすってるのは、部屋のほこりが鼻に入って、鼻水が出ちゃうだけなんだよ?  肩が震えてるのは、モップがけで力を入れてるからだもん。  だから、お願い。気づかないで~っ!!  カタンと、後ろで音がした。 「綾、もういい。助かった」  大きな平たい手が、あたしの背中にのびてくる。  ビクッと丸くなるあたしの肩の上を通り越して、ヨウちゃんの手は、モップの柄をつかんだ。 「これは、オレがかたしてくるから。ついでに、上行って、かあさんにケーキかなにかもらってくる。おまえは、洗面所で手、洗ってきな」  細々と静かな声。 「うん……」
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