ある晴れた日の書斎から

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 ヨウちゃん、水道の蛇口から、ドボドボ水を流したまんま。うつむいている広い肩が、石みたいに硬い。 「……っ……」  シンクのふちにつかまった平たい手の甲が、ぶるっと震えた。  サッと、お母さんから顔をそむけて、ヨウちゃん、窓際に歩いていく。  左右に食器やおなべのたながそびえる、カウンターのすみっこ。縦長の窓にステンドグラスがうめ込まれていて、そこから日が差し込んできてる。  窓に頭でもたれて、背を向けて。ヨウちゃんは肩を丸めた。  肩が震えてる。  手で隠した口元から、もれてくるのは嗚咽……。    こみあげてくる泣き声を、いっしょうけんめいに、のどのところで、押しとどめてる。  ウソ……。  ヨウちゃんが……泣いてる……?  近寄ろうとしたら、ポンッと、あたしの肩にお母さんの手がのっかった。  顔をあげると、お母さんは、人さし指を口元で立てていた。 「綾ちゃん。男の子ってね。自分のカッコ悪いところを、隠したがるものなのよ。見たことは、ナイショにしてあげてね」  だって……。  だけど、どうして……?  心臓を、内側からしめつけられちゃって。  また、あたし。ききたいけど、きけないまんま。 ――おわり――
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