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十月一日、午前九時。出社時間を狙って警察が職場に来た。一か月前に軍曹部長から出た指令が捜査の引き金となったと耳にした。何が起きたのか。誰が知っているのか。
「逮捕された泥棒が仲間のアジトを吐いたようなものだ」
一か月前、軍曹部長がプロジェクトを指示した時、そう皮肉を込めて企画書類を投げてよこした。給料に見合う仕事をしていない者が、少しは役に立てると言いたかったようだ。
インスタグラムを利用した顧客の開拓。効果があるかどうか疑わしい痩身サプリの購入を誘導しろという。
軍曹部長以下十名が営業担当として働く地味なこの職場は、未だにホワイトボードに手書きで会議が進行する。インスタグラムを理解している者が存在するとは思えない。若いからという理由だけの消極的な任命だった。
社員を追い込むことが仕事だと確信し、軍曹と呼ばれる部長が「一か月でフォロワーを一万人にしろ」と命じてきた。「但しサクラは使うな」と釘を刺す。フェイスブックや電話番号をリンクさせた『知り合い』を取り込むことはご法度という訳だ。
部長にそんな知識はない。役員からインスタグラムのPR効果を問われた際、意見が出たのだろう。あくまで新規の女性顧客を開拓しろと。利益につなげろと。
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