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一か月で一万人はハードルが高すぎる。伝票整理など事務を担当する二十三歳の女性派遣社員が気の毒そうな視線を寄こした。個人的にインスタグラムをやっているのかもしれない。軍曹部長から強引に食事に誘われ困っているという噂を耳にしたことがある。
指令は即座に実行に移す。軍曹の鉄の掟だ。早速インスタグラムのアカウントを立ち上げ、新たな顧客を釣り上げるためのプロフィール作成にとりかかった。
インスタグラムの利用者は日本国内で七千万人と聞いたことがある。実際は、一枚も写真を投稿していな者や、知人の依頼でフォローした後、放置状態のゴーストも多数いるはずで、活用人数は定かではない。有名人のインスタグラムを見るだけの者もいるだろう。
インスタグラムが急激に普及したのは、写真の撮影から投稿、閲覧者とのコメントのやりとりまで、スマートフォン一台で完結できる手軽さと、写真や動画が主役であるため、国境を飛び越えても、瞬時にビジュアルとしてインパクトを残しやすい点がある。
以前は身内や友人で見て楽しむ存在だった写真を、全世界に公開する。大好きな花の写真を投稿すると、地球の裏側の人間がリアルタイムで閲覧できる。その写真が気にいれば『いいね』や『コメント』が瞬時に返ってくる。
ある友人がこう語った。市民一人一人の自叙伝や趣味の写真集が世界中の書店に並ぶようなものだ。誰でも手に取ることができる。市民一人一人が自分の展示場を持ったと言った者もいる。現にインスタグラムの投稿アカウントはギャラリーと呼ばれることが多い。
プロフィール作成の手を止め、無数のギャラリーを眺めてみる。個人の趣味や旅や子育ての記録から、企業やショップの商品サンプルの提示、非営利団体やコミュニティーのアピールなど様々な形態で運営されている。気に入ればボタン一つでフォローできる。
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