第一章

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ビートルズ・スタンダードに匹敵するような歌があるだろうか。 そこで、わたしはひとつの仮説をたてる。 ビートルズ解散後のポールが本来のポール・マッカートニーであって、ビートルズのポールは特別だったと。 人間は、持っている能力のせいぜい5~10%しか使っておらず、その残り90%以上は眠ったままであるらしい。 ビートルズ時代のポールは、その生まれ持った才能が10%と言わず、フルに回転したのではないだろうか。 そうさせたのは、ジョンへのライバル心であり、ビートルズへの愛情であり、なにか目に見えない力だったのだろう。 ポールは、逆境の時ほどいい仕事をしている。 アルバム『Band On The Run』 『Tug Of War』 もう今となっては、老成したポールにそれを望むのは酷だ。 それでもポールは頑張ったのだ。 ビートルズの後継者と言われたプレッシャーにも負けず、数々の名曲を作ってくれたのだ。 【ポール派宣言・その3】 「あなたは何をしている自分に、一番自信がありますか?」 以前こんなインタビューに対して、ポールは次のように答えた。 「1番自信があるのがベーシストの自分。これはかなり気に入っている」 「2番目がボーカリストとしての自分で、その次がソングライターとしての自分かな」 バンドをしているファンなら、この答に大きくうなずくところだろうが、一般的なファンとしては、やや意外な返答ではなかったろうか。 普段あまり正直には、胸の中を打ち明けないポールだけれど、この返答は、本心だったような気がする。 一般的なファンのわたしとしては、もちろんベーシストとしてのポールもボーカリストとしてのポールも凄いと思うけれど、 「ソングライターとしての自分が一番自信あるんだ」と、言ってほしかったところだ。 あれほど、数々の名曲を生みだしておきながら、意外なくらい自覚がないのだ。 「ビートルズはやはり凄かったんだ」とか、 「ジョンと出会って僕はラッキーだった」とか、 「イエスタデイは、夢の中で自然にメロディが浮かんできた」とか、 まるで他人ごとのようであり、あまりにも謙虚すぎる。 仮にジョンならば、大衆が聞いていることを十分意識したうえで、ビートルズがポールのおかげだなんてことは、まず言わないだろうし、作曲の秘密なんかも決して明かしたりはしないだろう。
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