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「で、綾。妖精を呼び出したいんだったよな?」
スタスタ歩いて、ヨウちゃんが、お父さんのつくえにまわりこんだ。一番下の引き出しを開けて、ノートを取り出してる。
コレ、お父さんが書いた本を、お母さんが日本語に翻訳したノート。
そこには、クラスメイトにはわからないような言葉が、いっぱい書かれてる。
「オーク」とか「ホーソン」とか「アッシュ」とか。
って。ただの、植物の名前なんだけどさ。
あたしたちが秘密にしてるのは、その植物をつかって、薬をつくる方法。
たとえば、妖精を呼び出す薬だったり。
妖精の傷を治す薬だったり。
妖精から受けた、人間の傷を治す薬だったり。
ヨウちゃんのお父さんは、そういうことができる「フェアリー・ドクター」だった。
お父さんが亡くなってから八年たって、ヨウちゃんとあたしが「フェアリー・ドクター」になったんだ。
「これだな。オークとホーソンとアッシュの枝を、正確な比率で混ぜ合わせて、燃やす。その煙のにおいが、妖精たちを呼ぶ。香みたいなもんか?」
「……それで、チチとヒメはまた、あたしに会ってくれるかな……?」
あたしはハァとため息をついた。
あたしには、仲良しの妖精さんたちがいた。
メルヘンみたいだけど、ちゃんとした現実。
なんで、日本の花田みたいな、片田舎に、妖精がいるのかっていうと。
ヨウちゃんのお父さんが、妖精のタマゴを十数個、イギリスから持ち込んだからなんだって。
そのタマゴが孵化して、産まれたのが、花田にすむ妖精たち。
だけど、あたしはその子たちを傷つけた。
以来、浅山に行っても、みんなに会えない……。
「また、友だちになってもらおうとか、そんな、ずうずうしいこと思ってないよ……。でも……やっぱり、もう一度、ちゃんとあやまりたい……」
ふっと、頭があったかくなった。
顔をあげたら、ヨウちゃんの手のひらが、アホ毛ごと、あたしの頭の上に置かれてた。
ふんわりなでる、包み込むみたいに、大きな手のひら。
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