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「それじゃあ、今年のクリスマス会の劇は、ピーターパンで決まりです」
学級委員の有香ちゃんが、黒板の前で、黒縁メガネを鼻の上に押しあげた。
ふたつにわけて胸でたらした、真っ黒いつやつやの髪。すらっと背が高くて、細い腰。
親友の有香ちゃんは、頭がよくって、お裁縫も料理もなんでもできる。
アホっ子で、なにをやっても、うまくできないあたしとは正反対。
「じゃ~、ピーターパン役は、中条君にして~っ!」
教室から黄色い声がとんできた。ツインテールに猫目がカワイイ、リンちゃん。
つられてほかの女子たちも「中条君」「中条君」って大合唱。
あ~あ。
きょうもヨウちゃん人気、炸裂中。
窓ぎわの前から二番目の席に座って、そっと後ろをふり返ったら、真ん中の一番後ろの席で、ヨウちゃんがひとごとみたいに、しらっとほおづえをついていた。
さらっさらの琥珀色の髪。
トレーナーを着ている肩幅は広くって。胸は平たくって。つくえの下で組んでいるジーンズの足は、長くって。
なんか、六年生の教室に、おとなの男の人がまじっちゃいましたって、感じ。
のどぼとけまで、しっかり出ちゃってさ。声がわりをすませてるし。
ヨウちゃんは、クラスの女子たちの、あこがれの的。
鼻筋が通ってて。あごがしゅっと細くって。ほっぺたは石膏みたいに白くって。
ヨウちゃんの亡くなったお父さんはイギリス人。お母さんは日本人だから、ヨウちゃんはハーフ。
ビビリでヘタレなくせにさ。
ムダにイケメンなんだから。
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