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地元の祭は、昔から漁業が盛んだったからだろうか。海をメインに行われる。人々が集まり騒いで、去年の祭でなにかを得た者は、それを持って海に感謝を述べたあと、神社の境内で炊き上げをする。
祭で得た‘なにか’というのは、漂流物だ。
漂流物といっても、なんでもいいわけじゃない。
日が昇る前に自分の願いを込めたものを海に流し、それに関連するものが翌日の明け方に浜に流れ着いていれば、願いが叶うと言われている。
いまは環境問題がどうのこうのと言われているので、海に流しても害がないように、すぐに水に溶けて消える特殊な紙に願いを描いて流しているが、昔は樽や桶に願いの品を乗せて流していたらしい。伝統ある行事らしく、はじまりはどうのこうのと子どものころに誰かから教わった記憶がある。けれどカナミは真面目に聞いていなかったので、すこしも覚えていない。
「願い、かぁ」
カナミは立ち止まり、手の中の紙を見た。そこにはなにも書いていない。願いがないわけではなく、願いを誰にも知られたくない。だから、誰かに見られる可能性のある集会所では書けなかった。
「私の願い」
私のままでいられますように。
キャラを作らず、正直な私で過ごしたい。
(子どもっぽい願いだよなぁ)
深々とため息をついて、カナミは会社の人々の顔を思い浮かべた。
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