第1章 願いと漂着ー1

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第1章 願いと漂着ー1

 夜明けよりもすこしはやい、暁闇の中。カナミはひとり、ぼんやりと浜辺を歩いていた。カナミの背後では、楽しそうな声とほの明るい提灯の灯りが揺れている。  今日は地元の祭の前夜祭の最終行事。  と言っても、カナミは夜の間中ずっと起きて参加をしていたわけじゃない。眠っていたところを起こされて、連れてこられたのだ。  夜通し飲んでいた人たちの陽気な声や、起こされ連れてこられた子どもたちの元気な声が、波音と混ざってカナミの耳に届く。  空は降るような星空で、見上げたカナミは「田舎だなぁ」とつぶやいた。  帯状に密集した星が藍色の空に横たわっているのは、天の川。地元を離れて都会の大学に進み、大学のある地域で就職をしたカナミは、天の川がほんとうに川のように見えるとは知らない人たちと、仕事をしている。  それを知っていることが田舎者の烙印に繋がる気がして、誰にも言っていない。そういう映像や写真を見ると、知らないふりで「すごーい」とはしゃいでみたりもしていた。 (疲れたなぁ)  そんな周囲の人たちと接することや、そういうキャラを作ってしまった自分に。     
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