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そう、昨日は少しだけいらいらしていた。カフェでのバイト中の、客からのくそくだらないクレームのせいだ。最初にクレームをつけられたのは、一緒に働く大学生の女の子だった。横から割って入るようにして引き継いだのは、まあ要するにカッコつけたかったからだ。そのクレームは、実にくだらない事に対する単なるいちゃもんのようなもので、くだらないくせにやたらと粘ってくるものだから、無駄に疲弊した。バカじゃないのという本音を漏らせないのが接客業だ。あくまでも低姿勢に、丁寧に、我ながらよく頑張ったと思う。
帰り際、疲れたなーと思いながら、電話一本で宗司を呼び出した。
土曜の夜。平日の激務から解放されてようやくほっとしていたに違いない宗司は、それなのに突然の冬真からの呼び出しに、奢らされる事もおそらく百も承知で、嫌な顔ひとつせず応じた。正確には、嫌な顔をするふりはしたけれど。しょせんポーズだと甘く見ているから、冬真は遠慮しない。それはいつもの事だった。問題はそこからだ。
最初は店で飲んで、もう一軒行って、そしてこの部屋に来てまた飲んで、それで。相当飲んでいたはずだが、その割に記憶は鮮やかだ。一縷の望みをかけてそうっと布団の中を覗く。たぶん、間違いないであろう痕跡に思わず両手で顔を覆った。
嘘だろ。冗談だろ。冗談じゃない。夢だろ。いっそ夢だったらいいのに。そうだ、夢。夢なんだ。神様、どうかどうかこれは悪い夢でありますように。
ごそ、と背後でシーツが擦れる音がして、冬真は反射的に身を硬くする。
「…間宮?起きた?」
「……」
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