1.奇跡のバカは二度転ぶ

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「友達の顔しろって言われたって、もう今さらそれは無理だよ。だから来るって言うなら、そういう事だよ。俺にしてあげられるのはそれだけだよ。でも、二度目からは言い逃れできないし、ほんとに後戻りできないよ。そのへんわかってるなら、おいで」 「え……と」 フロントガラスの上の方から、夕陽が斜めに強く差し込んできて、目がくらむ。くらくらしたのはそのせいだけじゃない。宗司の言わんとしていることを理解したつもりだが、それはあまりにも予想外すぎる方向から投げられたボールだった。 心臓が静かに走り始める。宗司は一体何を言っているんだろう。何を考えているんだろう。そんなの頭おかしい。早くなる鼓動は、自分自身の無意識からの警告のようだ。そこから先は、絶対に進んじゃダメな場所だ。ダメに決まっている。だけど、その提案は不思議なくらいすとんと、冬真の心の中に入ってくる。 「…それさぁ…本気で言ってるの?」 「うん。……たぶん」 心臓の鼓動に反して気分は妙に落ち着いていて、これから自分がどういう選択をするのかを、冬真はたぶんもう知っている。 「その妙な面倒見の良さ、いつかあだになるよ」 「…間宮が言うなよ」 「はは、うん、そっか、そうだよね。……地獄の釜の淵、かぁ」 ぽつりと先ほどの単語を繰り返す。それは友だちを失いたくないばかりの悪あがきなのだろうか。だとしたらそんなやり方、絶対におかしい。間違っている。 「そうだよ」 「ろくでもないじゃん」     
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