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『あの後大丈夫だった?ほっといて帰るのほんとに心苦しかったんだけど』
「大丈夫大丈夫。だって俺今日仕事だし、しかも今朝に限って早かったんだよ。泊まってたら俺が家出る時、間宮も一緒に出なきゃなんないだろ。申し訳ないじゃん」
『そんなの…別に気にしないのに』
なぜか拗ねたような声で言う。可愛くもなんともないふくれっ面が容易に想像できてしまって、ふっと吹き出してしまう。
『…何?』
「なんでもない。まぁとにかく大丈夫だから。心配させてごめん」
それから少し話して、電話を切った。冬真の声を聞いて、ただのそんな事で気持ちが少し上向きになってしまった。その事に気がついて、前はこんなんじゃなかったよな、と思う。いくら男相手とはいえ、こんな関係を続けていれば、普通以上の愛着も自然と湧く。たぶんそんなものだし、当然の事だ。
「…ずいぶん、お幸せそうですこと」
その時。後ろから急に声を掛けられて、肩がびくりと跳ね上がった。
「…びっくりした」
振り返ると立っていたのは同僚の女性だった。
「聞いてたの?」
「聞こえたの。…課長が、先週の会議の資料もう一度見せてくれないかって」
「ああ。はい。了解」
「……」
「…友だちなんだ。電話の相手。男だよ」
「…別に言い訳していただくような間柄ではないわ」
「……」
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