1823人が本棚に入れています
本棚に追加
/828ページ
それはそうなのだが、だったらその威圧的な態度をやめてほしい。それにどうしても後ろめたい気がしてしまうのは、つまりは彼女が同僚でありながら、元恋人だからだ。
「資料早くほしいって」
「わかった。すぐ行く」
会社の他のだれも知らないが、二人は二年ほど付き合っていた時期があった。結婚を迫った末、煮え切らない宗司の事をばっさり切り捨てた件の恋人というのが、彼女だ。
恋愛の後始末は難しい、と思う。結局恋愛の始末のつけ方というのは、結婚か別れでしかない。結婚がゴールではないというが、結婚に至らない恋愛のゴールは別れだ。別れてしまえば、どんなに何を抱えたままでいようが、傷つこうが傷つけようが、お互いにもう何をし合えることもないまま、それぞれの日常がそこから先も、ただ別々に、ずっと続いていくわけで。
それにしても自分との結婚から尻尾を巻いて逃げておきながら、男相手にこんな関係になってしまっているなんて知られたら、一体どんな顔されるだろう。考えるだけでぞっとする。少し上向きになっていた気持ちも完全にしゅんと萎れて、また熱がぶり返してきたような気のする頭を抱えながら、宗司は足早に事務所へと戻った。
「あんなとこ住んでみたいなー」
あれから、つらかった風邪もすっかり良くなって、なんとか無事に一週間終えることができたと、ほっとしながらの土曜日、夜。
最初のコメントを投稿しよう!