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78.プロポーズ
車を走らせている。
デートしようか。
そう言って冬真を助手席に乗せてから既に結構な時間が経過していて、時刻は夕方に差し掛かっていた。
冬真とこんなふうにドライブするのは、おそらく今日が最後になるのだろう。引越しはいよいよ来週末に迫っている。
デートだと言ったくせに目的地はべつに無かった。どこに行こうと決めたわけでもなく気の向くまま適当に、ただ前を向いて進んでいる。
冬真も行き先を尋ねてきたりしなかった。助手席で窓の外を眺めながら、車中で流れている曲に合わせて気楽な調子で鼻歌を歌っている。
「宗司くん」
その鼻歌が止んだと思うと冬真がこちらに声を掛けてきた。
「んー?」
前を向いたまま返事をする。
「僕ね、見える気がする」
「何が?」
「宗司くんの未来」
「え?」
突然投げかけられた言葉の意味がよくわからないまま、一瞬だけ隣を振り返る。こちらを振り返った冬真と目が合った。
「宗司くんはさ、向こうに行ってね、なんだかんだ言って、一年後くらいにはまたちゃんとした彼女ができるんだよ。それでね、その一年後くらいに結婚するの」
そんな事を言った。いつもの愛想の良い笑顔で。
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