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ふと思いついたまま言えば、冬真はこちらを振り返った。
「え?」
「楽しかったから。前、間宮の運転で車乗ったの」
「ああ…」
冬真は思い出してみているようだ。
車を貸せと、そして運転の練習に付き合えと言い出した冬真に半ば強引に助手席に乗せられたあれは、いつの事だっただろうか。ゴールデンウィークだったかな、と思い出したところで冬真が言った。
「…え?宗司くん楽しかったのあれ。僕は楽しかったけど」
冬真は免許取得以来の一年ぶりでとにかく不慣れな運転だった。だからこちらが案内する道を走れと言ったのにそれに従ったのは初めのうちだけで、すぐに好き勝手に走り出した。こちらの言う事なんかちっとも聞かずに。
冷や汗をかきながら生きた心地なんか全然しない中、諦めたのか開き直ったのか、あの時助手席でただただ願ったのだ。
冬真がこうして一緒に乗せて、連れてってくれればいいのに。こちらが怖い怖いと騒ぎ立てるのなんか聞いてくれもしないで、無理やり連れてってくれればいいのに。この先の、ずっと先の未来まで。
「間宮」
「んー?」
「帰りたくない。このままどっか遠い所行きたい」
「…ええ?今から旅行?だから明日仕事なんだろって。できるわけないってわかってて言ってるだろ」
冬真は困ったように笑う。
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