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79.バースデープレゼント(最終話)
「はい、これ、忘れないうちに返しとくね」
ポケットに入っていた部屋の鍵を、冬真は宗司に差し出す。
並んで立ったまま、これまで何度も通った宗司の部屋を眺めている。積み上げられた段ボール箱。一人分の荷物とはいえ、それなりの量だ。
宗司は明日、この部屋を出ていく。
「ちょうど一年前だよね、この鍵くれたの」
「そうだね」
そう言うと宗司は頷いて鍵を受け取った。
今まで知っていた部屋とはすっかり様子の変わってしまったそこを、冬真はぐるりと見渡す。
段ボール箱がいくつも積まれていて雑然としているのにやけに静かになってしまったような気がするのは、今まであった物があった場所に無いからだろうか。
この部屋で活躍する数少ない調理家電だったコーヒーメーカーも、ほとんど飾りでしかなかった炊飯器も、その姿が見えなくなっている。宗司とお揃いで使っていたマグカップが入っていたはずの棚の中も空っぽだ。
「この部屋、明日にはなんにも無くなっちゃうのかぁ…」
宗司とのこの関係は、この場所から始まったのだ。
しょっちゅう二人で並んだソファも、一緒に眠った狭いベッドも、明日には処分されてしまう。
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