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宗司は穏やかな微笑みを浮かべてじっとこちらを見ている。でもその微笑みの向こうに寂しさのような心細さのようなものを隠しもせずに滲ませて、その表情のまま、名前を呼ばれる。
そうしながら伸びてきた二本の腕の中に入れられた。抱き寄せられて、されるがまま、じっと立っている。
「間宮」
「うん?」
「間宮…」
「あはは、なーに?宗司くん。…ちゃんと聞いてるよ」
抱きすくめられているせいで宗司の顔が見えない。でもそうして抱きしめてくるその腕に、今まで何度も同じようにされてきたどの時よりも力が入ってしまっている。苦しい、と思いながら提案してみる。
「…ね、宗司くん」
「ん?」
「セックスしようか」
「………」
「セックスしよう、宗司くん」
「はは。…うん。しよう」
知らない部屋みたいになってしまった宗司の部屋で、明日には無くなってしまうベッドの上で、何度も唇を合わせながら、これまで何度もそうしてきたように、二人して服を脱いで、抱き合う。
最初はなぜそんな事をしてしまったのかわからなかった。それはたぶん宗司も同じだった。
でも今は違う。お互いがここにいる事をただ感じたくてそうするのだ。
一生懸命抱き合う。確かめるみたいに。覚えておくみたいに。
その温度とか、重さとか、感触のぜんぶ。
肩越しに見えた景色も、聞こえてくる微かな吐息やシーツが擦れる音も、触れ合う胸に感じる自分のではない鼓動も、ぜんぶ。
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